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最近、日本人観光客にもその魅力が知られつつある、スリランカのアーユルウェーダ。「代替医療」なんちゃってフリークな私には外せない、食指にょきにょきテーマである。アーユルウェーダの解説は他に詳しいので、あまり日本語で纏まっていない、スリランカのアーユルウェーダの過去と現在を少し調べてみた。
過去 スリランカに正式に、ハーブを多用する自然治癒法として知られるアーユルウェーダ(生活の科学)が伝わったのは紀元3世紀ごろ、スリランカで最初の王国を築いたデワナムピヤティッサ王の時代(250-210BC)に北インドから仏教とともに導入された。それ以前から存在したスリランカ独自のデシヤ・チキツァなる最初期の医療と融合し、発達した。 なお、正式な導入前にもインドとの技術交流があり、インドのアーユルウェーダの古文書によれば、スリランカを統治していたターラカ王の子で有能な医師プラスティ・リシがヒマラヤ王国での第一回リシ(知の求道者)会議に参加したとある。その息子ラワナ王は4394年前ごろ(2004年現在)スリランカを支配し、医師でもありアーユルウェーダの書を3冊著したといわれる。 デワナムピヤティッサ王はミヒンタレー(アヌラーダプラに近いスリランカの仏教発祥の地)に仏教僧のため、世界でも最も古い病院の一つといわれる、スリランカで最古の病院を創立した。その病院は、遺跡として今も保存されている。スリランカで最初のアーユルウェーダの文書は、著名なアーユルウェーダの内・外科医でもあったブッダダーサ王(AD337-365)が編んだサラルタ・サングラハヤで、薬の準備、診断、治療、手術法を詳細に網羅した。後に仏教僧がアーユルウェーダを開業し、数々の書を著し、スリランカでの振興を助けた。スリランカにおいて、アーユルウェーダの発展は仏教と強く結びついている。実際、アーユルウェーダは王国の保護を受けていたため、医師の社会的地位は高く、諺にも「王になれぬのなら治療者になれ」とあるほど。アーユルウェーダはその後、19世紀ごろ西洋医学が導入されるまで発展を続けた。 当初、基礎知識や治療法は口頭による伝授で代々受け継がれ、記憶を容易にするためスロカと呼ばれる詩の形をとった。やがてサンスクリット語で書き下ろされ、今日では、チャラカが著したサウヒタというアーユルウェーダの有名な書がシンハラ語、英語で入手可能である。 現在 今日のスリランカで、アーユルウェーダにみられる特色は3点ある。一つ目は、まさしく語意そのものの健康法として、民間療法と融合しながら家庭で受け継がれ人々の生活に根ざしていること。二つ目は、西洋医学の導入により相対的に停滞した後、主に海外から伝統文化・医学という財産として再評価を受け、スリランカ政府がその価値を見直し、保存と発展に力を入れるようになったこと。三つ目は、観光資源としてのそれである。 一つ目に関しては、医食同源という説明が最適で、日本では整体などを取り入れた総合的な漢方治療がイメージに近いようだ。アーユルウェーダは体内の気のバランスを基に診断し、ハーブ、鉱物、蟻酸、水などを用いた治療、芳香・医療オイルを用いたマッサージ、食餌療法、解毒等を組み合わせ体質を改善するものである。ハーブに加え、香辛料も取り入れた料理も身近である。また、ヘッティゴダ氏が創立したシッダレパ社という約200年の伝統を持つアーユルウェーダ関連の会社があり、そのクリーム(タイガーバームと似る)は万能膏薬として広く使われている。切り傷、火傷、疼痛、鼻炎などに効能がある。 また、病院は主要な都市のみならずむしろ郊外に広範に点在し、全国的に医療施設が未整備である現状において、簡易医療を地方で広く実施する点に大きな役割を担っている。国営の病・医院は4箇所、州営は167箇所、地方自治体には無料診療所が230箇所ある。伝統的に、薬代を除き診療費を徴収しないとされ、医は仁術との思想が残っている。軽い病気であれば、安価で安心なアーユルウェーダ病院へ行くものが多い。 二つ目に関しては、伝統医学省の存在と取り組みが興味深い。 地域レベルの初級医療としてのアーユルウェーダを含む伝統医療の価値を再認識し、また振興するため、伝統医学省が設置された。アーユルウェーダ局のほか、アーユルウェーダ薬品公社や病院の運営、薬草保存事業などを実施している。また、医師の育成(西洋医学とともに大学で6年学ぶ)、治療法の知的財産としての保存、医療の質向上などにも取り組んでいる。 そのほか、外国人観光客を対象とした観光資源として、ホテル産業がアーユルウェーダに熱く注目している。二つのアプローチがある。一つは、リゾートの一環として、スパやマッサージと同列に、30分程度からの短時間の体験版としてアーユルウェーダの一部を提供するもの。二つ目は、アーユルウェーダ・リゾートと銘打ち、アーユルウェーダの実践を主目的に本格的な設備とスタッフを揃え、外国人観光客用に立地と宿泊施設にも配慮した、1週間-2ヶ月程度の長期滞在を前提にしたものである。 一つ目の簡易版は、5つ星リゾートホテルを中心に、多くのホテルでサービスを提供している。頭や全身のマッサージをオイルを用いて施すのが一般的である。医師はおらず、施術士が他のアロマセラピーなどと兼ねているので、残念ながらどちらもイマイチな場合が多い。が、五感を刺激し好奇心は満たしてくれよう。 二つ目の専門版は、治療効果を期待しつつ、長期に取り組むので、体質の変化を求める場合に満足が高い。医師の診断に基づき、食事、投薬、施術、ヨガなどを有機的・相関的にプログラムし、意識の高いリゾートほど、ご法度とされるアルコールやコーヒーなどをおかず、専念できる環境にある。自分が4日間体験しただけでも、投薬により、治療の初期段階で不可欠な解毒、排出の作用を極めて強く感じ、治療行為であることを痛感した。また、長期滞在型は、スリランカのリゾートに伝統的に多いドイツ語圏出身者が圧倒的に多く、次いで他ヨーロッパ人、という客層である。 アジアの伝統医学に影響を与えたアーユルウェーダ。日本人の生活にも漢方、民間医療などでなじみがある。今後、ファンが増えそうだ。 参考文献 Historical Perspective, Institute of Ayurveda and Alternative Medicine, 2004 Hon. Deputy Minister’s Message, Ministry of Indigenous Medicine A History of Sri Lanka, K.M. De Silva, 1981 Sri Lanka, Footprint, 2003 Siddalepa Ayurveda Health Resort
by bohemianism
| 2004-07-31 18:20
| スリランカ Sri Lanka
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